第2号 2008.08.09

5.声の可能性と限度

 声には、先天的なところと後天的なところがあります。厳密には、指紋と同じで、
一人ひとり“声紋”は違うので、他人と全く同じにはなれません。
声帯や発声器官での限界もあります。声や歌は、けっこう加工できるので、それを
わかりにくくしてしまいます。(特にうまくなろうと思い、うまくしてくれるという
指導をされると、こうなってしまうのです。それで満足できるなら、これも悪くは
ありませんが、深められません。)

 ここで知ってほしいのは、すぐれた成果をあげたいなら、好き嫌いはさておき、
「自分が持って生まれた楽器をきちんと使いこなすことに目標を絞る」ということ
です。声はもって生まれたものだけに「可能性があるとともに、制限もある」のです。

6.目的をはっきりさせよう

 あなたの目的が、うんちくを貯えたり、それで議論したりすることでなければ、
大切なことは、それを今日から生かすこと、すぐに生かせなければ、
どういう形で生かしていくかを考えること、考えられなければ悩むこと、です。
迷ったら、いったん本を投げ出し、シンプルに思うようにやってください。
そして読みたくなったら、また開いてください。

 「ヴォーカリストになりたい。役者になりたい。声をよくしたい。」
本を読むのも、スクールにいくのもよいでしょう。しかし、わからないことが
わかっても、疑問が解けても、何にもなりません。実は、わからなくても、
最高のステージができていたらよいからです。人生でやりたいことが実現できて
いったらよいのです。

7.わからないことを恐れない

 私は、少なくとも、声に関しては、学び始めたころの数百倍もわからないことが
増えています。しかし、トレーニングによって自らの声は鍛えられ、
このような仕事ができるようになっています。
 大切なのは、「声を、現実にどう生かすのですか」ということです。
つまり、あなた自身の問いをつくることです。あなたが、あなたの夢を現実に
かなえる、それがあなたの答えであるべきです。

 よく尋ねられる質問の中には、高音の出し方、声区のチェンジ、ファルセットの
かけ方、ビブラートのやり方、ミックスヴォイス、マスケラ、ベルカント
デックング、ジラーレなど、たくさんあります。

 このマガジンでは、何人かのトレーナーの答えや本を引用していきます。
それ以前に、問題にすることにおいて、問題になるものは、問題ではないと思うの
ですが、あまりによく聞かれるので、触れました。
 あなたが、ヴォイストレーナーや弟子をもつ声楽家なら、世界の最先端の
研究やその言葉の意味、由来を知ること、そういう専門家との知識のやりとりは
必要でしょう。他人を知るのは、自分を知ることと同じく、難しいからです。

 もし、アーティスト、ヴォーカリストを目指すなら、現場では、こんなもの一切、
不要なのです。「ベルカント唱法を少しやっていた」とか、「○○先生のもとに
少し通った」とかはいりません。偉い先生のもとにいたからって、あなたが偉い
わけでも、できたわけでもないのです。

 こういった技術が習得できたからといって、トレーナーでなければ大して
使いませんし、使うところもありません。何しろ、使うというのは、技術とみえなく
なるまで、完全に習得しなくては使いようもないからです。お金でその技術を
習得したらプロになれるというのは、日本人らしい真面目さからくる誤解です。

 あなたの声が何を表現するかがすべて、です。
問われるのは、あなたの(作品としての)価値がどこにあり、何を補うべきか、
そのための手段として、ヴォイストレーニングがどう有効か、ということだけです。
肩書きや経略にこだわらないことです。

8.マニュアルを超えること

 私の答えは、とてもシンプルです。複雑で、難しくなるとしたら、おかしいと
疑いましょう。それは、歌や表現を声の中でなんとかしようなどと考えるからです。
ただ、ただ、あなたの表現へのこだわりを徹底して深め、声に込めるのに努めなさい
ということです。できたら、詩や音楽の神様の導きの元に・・・。
そしたら、心と体、呼吸と声は大きく結びついてきます。そのために学ぶのです。
マニュアルは所詮、マニュアルです。

 トレーナーに教えられたり、直されたりしてしまうような歌や声が、世の中に
通用するわけがありません。誰もトレーナーやプロデューサーの出した答えを、
あなたに再提出してもらいたいのではない。そんな安易な方法(論)やマニュアル
や技術で得たようなものは、それが前面に出てしまうだけです。
それは、“声らしいもの”“歌らしいもの”ではあっても、決して“声”“歌”では
ありません。

 あなたは、あなたの答えを出さなくてはいけません。他人のように歌うのでなく、
あなたの歌を歌う、いいえ、あなた自身を歌ってください。「発声からでなく、
声の使い道から考えること」です。つまり、目的から考え、ヴォイストレーニングは、
その補強に最低限、必要であると位置づけるべきなのです。

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