第5号 2008.08.30

○あなた自身の声、そして歌に気づくこと

 養成所が与えられるものというのは、本番以上に厳しい場とそこで耐えうる習慣
だと思います。やっていると、伝わる伝わっていないというのは、否応無しに
わかってくるところでなくてはなりません。とことん音声に敏感になれたら、
ということですが、そうやって、ようやく自分の基準ができていきます。

 私のいいたいことの多くは、本にも述べているのですが、書いてあることと、
実行できることは違います。そのことばの意味することがどういうことなのかと
いうことを、レッスンの場から気づいていくことです。

 トレーニングをやって何の意味があるのかと考えるような人もいますが、
私からいうならば、力をつけることにしか意味が生じないのです。
習いに行かなくとも、それ以上のことをやっていて、それなりのものを作っている
人はいくらでもいます。それを前提に考えなくてはいけません。今うまくできない
とか、やれていないということは、あまり気にすることはありません。

 自分のものがいつ出てくるかというのは、誰にもわからないのです。
やっていきたければ、手間ひまをじっくりとかけることです。そのことを最優先して
生きることです。作品そのものからインスピレーションを得て、トレーニングの方法を
自分で発見し、それを実践して、常にレッスンの中で問うていくことです。

 レッスンであっても、「その歌」を歌うのではありません。もし「その歌」から
学べるものを全て学んだら、「その歌」にはなりません。「あなたの歌」になります。
そして、「あなたの声」に「あなた」が現れて、はじめて伝わります。

○徹底した基本のマスターを

 発声なども、1曲を繰り返し徹底してマスターすれば、ほとんどの問題は
解決するはずです。もちろん、何事も発声法だけで解決するものではありません。
複合的なものを入れては出して、繰り返すのです。いつかそれを忘れたときに
歌が出てくるのです。だから、発声と音楽たるものの基礎を徹底して、
自分に入れておくことです。

 曲を本当に聞くことができているなら、一曲の中でリズムトレーニングも、
音感トレーニングもできるのです。それが聞けない時期は、トレーナーについて、
別の方法で音感などを磨いていくことも有意義です。そうして自分なりに、
自分の方法論をつくってください。

○レッスンやトレーニングでやるべきこととは

 1.長期的に、今すぐ役立つものではなく
 2.やがて過酷な状況でも、のどが耐えられるように
   (鍛えてタフに、使い方を知ること)
 3.一人でやれないことをやる

 このように、あとで効いてくることをやることがトレーニングなのです。
 参考までに、私の敬愛する中川牧三氏の言葉を引用させていただきます。
聞き手は心理学のオーソリティ、故 河合隼雄先生です。
(「101歳の人生をきく」中川牧三・河合隼雄著 より)

河合:合唱団なんかも、ちょっと特別なものと違いますか。一糸乱れぬように
パーッとやって喜んだり、むずかしい曲を必死に練習したりして。
だけど、自分の身体からほんとうに声が出てきて楽しいという感じじゃなく
なっているのが多いみたいに思うんですけどね。

中川:悪口のようになるから言うのはいやなんですけど、いまのみなさんの
勉強のしかたには多くの問題があるように思います。世に蔓延する偽者(技法)
に騙されてはいけません。それに近道を望んでもいけません。
 レコードを、エンリコ・カルーソーのにしても、レナータ・テバルディのにしても、
ほんとうに偉い人の歌をよく聴いてみてください。けっしてみなさんがやっている
ような声で歌っているわけではない。それがすぐわかるんです。

 この歌をカルーソーはどう歌うのか。ここまでポジションをもちあげて、
その次にここをゆるめて、この場所に入れる。それから曲芸を見せて、
ウーッと・・・。真の芸当ができるのは真の力のある人だけです。
 それに、この正当なベルカントの発声法は、ただ練習を熱心にしたからと
いうだけでできるわけではないんです。

河合:それはしかし、音楽だけじゃなくてすべてに通じることですね。
いまはやっぱりみんな慌てるから。本当の先生は時間がかかるんですね。

中川:時間はかかります。

河合:パッパーッと真似して、「ここまで」とか「これで」と言うんやったら、
これは方法があるんです。そこまで到達するなら、わりと簡単な方法があるんですよ。
 それにいまの人たちは、歌だけじゃないですよ。あらゆる世界で、
みんなマニュアル方式で「ここまで行きましょう」と。
 それでちょっと才能のある人は、それにプラスして勝手にミックスしてやっている。
そういうふうな格好がものすごい多いかもしれませんね。

中川:そのとおりです。

河合:それをもういっぺん、ほんとうの先生から、人間から人間に、と。これは
歌の世界で言っておられるけど、あらゆるところに通じることじゃないですかね。
現代の大問題。それは機械でパッとわかるということと同じで、要するに、
要領のよい方法であれば、ここまで行きましょうというのは、ものすごく発達して
きているわけです。

中川:あらゆる分野で。

河合:また、若い人はすぐ、「先生、どうしたらそうなりますか」と訊くんです。

中川:よく訊かれますねえ。

河合:その問題がすごく大きいことかもしれませんね。で、生の、生きている人と
生きている人の関係というのが少なくなってきて・・・。

中川:イタリアでも発声レッスンの場合、習うほうにしてみればもの足りないんです。
それらを積み重ねて紙一重の違いを見極めていく忍耐がいるんですが、
でもいまの人は、じれったいんでしょう。それから、曲をちっともやらして
くれないから、おもしろくない。それより、一つの曲を二回歌って、克明に直して
もらう「曲づくり」のほうを喜ぶ。それでは何にもならないんだけど。


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<「トレーナーの選択」に関するQ&A>

QVT.個人レッスンでのトレーナーが合わないときは。

A.ここではすぐに変えることができます。決して間違いなどというのはないこと、
本来なら1人しかつかないトレーナーが、ここの場合は十数名いて、
チェンジできる余地があると、とらえてもらえればよいのです。
いつでも最良の選択ができるようにフォローしています。

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