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第7号 2008.09.13

○知識や理論に振り回されないこと

 昔、私の講演にきた人が、「ピアノの真ん中の音は、なぜ人間の話す声の高さと
同じなのですか。」と聞くので、「私は人間がつくったから」と、答えました。
なぜピアノが両手で届く幅しかなく、20オクターブものピアノを作られないのかが
わかりますよね。勉強熱心な人は、このように、ものごとの正誤ばかり求めて、
本質を見失いがちです。これについては、長くなるのでやめます。
バカの壁」(養老孟司著)※でも読んでください。

 なまじの知識や理論は、実践という見えないものをみて、聞こえないものを聞く力が
問われる現場では、邪魔にさえなります。人間が人間に伝えるために、長い人間の
歴史の中ですぐれた表現者は、常に科学で捉えられぬことをやってきたのです。
どうして、一秒に何千回も開閉、振動する声帯をコントロールできますか。
理屈でなく現実の人間の声で、世界中ですばらしい作品を生み続けてきたのです。
 本気で相手に伝えようとしたとき、人間の心から体、息、声、ことば、音色は、
もっとも効果的に働きます。つまり、人間が本当に伝えたいときに伝えてきたものを、
大切に受け止めてきたDNAに反応したもの、それが結果として目指すべき表現なの
です。

 よいものの分析はできますが、分析からよいものは生まれません。
この例は、高音発声法をそのしくみから解明しても、必ずしも万人に効果のある
トレーニングにならないことに、顕著に現われています。特に、時代とともに
ある声は、未来の先取りしたアートと現実の社会の聴衆とともにあるからです。

 私は講演会で時に実例を見せます。こういう発声、ひびき、歌は、一見もっとも
らしいけど、嘘っぱちですと。なぜなら、私が伝えたい思いを持たずにやったから
です。その結果、テンションは落ち、部分的にしか体が働かず、心が死んでいるから
です。この声はとてもよいと思われる人がいるかもしれません。とても大きいかも
しれません。でも、それしか伝わらないでしょう。皆さんは、これを技術とか
キャリアとは思ったかもしれません。しかし、感動しましたかと。

 ヴォイストレーニングを長くやれば、このくらいは何割程度の人はできるように
なります。だからって、何にもなりません。目的や方向を今一度、考えてもらうため
です。声楽に学ぶのは有意義ですが、声楽家もどき声を目的にしないことです。
イメージすべきことは、一流のプロの演奏レベルの声と歌唱力をもったとき、
あなたはどういう世界を作るのか、ということです。

 お金があっても、使えない人にはお金は無価値で、お金を得ることを考えるのも、
意味がありません。行動したら、お金は動きます。今のお金を最大限に使える人は、
また大きく使えるだけのお金も得られるのです。この、お金のところを声に置き換えて
考えてみてください。

 本当に人の心に働く声は、内面からしか変わりません。外面から変えるマニュアルや
方法は、ただのきっかけか、一時しのぎにすぎません。もちろん、それも使いように
よっては有効です。
 すぐれたアートが出てくるには、あなたの中にすぐれたアートが宿ること、
あなた以前のアーティストがくれたものが、あなた自身とのコラボレーションに
よって、次代からアートがあなたに引き出されてくる、そこにしか真の可能性は
ないのです。

 昔から、私が述べてきたことがあります。「ヴォイストレーニングだけを考えると、
必ずおかしくなる。ハードにやるとのどを壊す。しかし、ハードにやらなくては
身につかない。壊れないためには、音楽を入れておき、ギリギリでリスクを回避
できるようにしておくこと。」
 これはトレーニングだからです。できたら(10年以上)時間をかけて、
ハードにやらずに身につけば、もっとよいのです。声はやるべきことの10分の1に
過ぎない。しかし、確かな10分の1は大きい力となる、ということで、
今も同じことを伝えているつもりです。

 科学(音響学)、医学(生理学)的な分析や客観的事実の限界は、
そのことが真理であっても、必ずしも人間が感じられたり、心を動かすものでない
ということです。たとえば、声の強さは声量(と人が感じるもの)と違います。
ピアノのダイナミックな表現も、腕力の強さや音の大きさでなく、タッチのメリハリ、
速さ、鋭さ、ドライブ感から人の心に訴えかけるのです。

 案外と、声のヒントは、現実社会の人間の間に落ちているのです。
正しい発声法で歌えば、人に伝わるのではありません。テノール、ソプラノ、
あるいはアナウンサーの発声が正しい発声の見本でしょうか?
 発声は、きっかけに過ぎないのです。心の表現が、発声を高度なところまで
求めるのです。そこにヴォイストレーニングが必要なのです。この入り口には、
出口が必要なのです。

※「バカの壁」には、個性は頭でなく、イチロー松井秀喜中田英寿選手のように、
体に宿ることを説いています。

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<「トレーナーの選択」に関するQ&A>

QVT.外国人トレーナーは、日本人にも使えますか。

A.ここでも外国人トレーナーを入れたことがありますが、外国人にとっては
日本人はあまりに声や音楽への関心が足りなさ過ぎるのでしょう。
彼らの多くは、声という以前の、表現を楽しむところからレッスンを始めます。
本当の意味では、基礎を知らないと表現にはたどり着きません。
10年たってもボイストレーニングには至りません。
だから彼らの方法は正しいのですが、ボイストレーニングからやった方が、
日本人にはわかりやすいといえるのです。

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