第16号 2008.11.22

○声量はどこまで必要か

 声量と歌の伝わり方は別問題です。声量は、人によって違います。
歌を展開の中でもっともみせられるように声量は定まるのです。
そのため、一定ということはなく、刻々と表現に応じて、音色も響きも
トーンも変化します。高い声や声量を使ったところばかりでなく、低い声、
声量を使わないところでのプロの表現をよく見習ってください。

 声に芯があり、歌に線があり、線に変化があって、その線の動きの変化を
捉えてはじめて、聞く人はヴォリュームを感じます。徐々に大きくなっていく
ことで、感情が盛り上げられ、高揚します。曲というのは、だいたいそのように
つくられています。

 他人の感覚やイマジネーションに働きかけるのは、歌い手の感覚や
イメージなのです。声に焦点がなく、浅く広がっていては、歌えても歌を
動かせないのです。芯のある声で音楽的なデッサンで歌の形をくっきりと
描き出してこそ、演奏になるのです。つまり芯があり、響きの線のみえる
声とそれを使って描く力が必要なのです。

 結論からいうと、声量はあった方がよいことは確かです。声を張りあげたく
なければ、大きく使わなければよいのです。何ごともないよりあった方が
よいのです。それは、聞く方に、次の表現の可能性への期待をもたせ、
さらに安定感、奥の深さを感じさせ、歌い手の余裕につながるからです。
 魅力というのは、その人の力の底が見えてしまっては、もたなくなるのです。
声量に余裕があるということは、使わないほど期待感が増し、要所に
絞り込んで使われたときには、満足感をもたらします。

 声の大きさは、自分の歌を相手に伝えるために、表現上で必要とされる
ことの一つにすぎません。自分のメッセージが上手に伝えられるならば、
歌はそれで充分です。むしろ、声量をもって、歌の効果を損ねるのは
さけるべきです。声のよい人、声量のある人が、あまりよい歌い手に
ならないことが多いのは、声や声量や共鳴を聞かせたいと思うからです。
どんな武器も、繊細に使えなくては、無意味です。

 激しい気持ちを表現したいときでも、大きな声を出さずとも表現できる
なら、その方がよいでしょう。実はそのほうがずっと難しいからです。
つぶやくように小さな声で表現が保てるためには、そこで体を使えなくては
通用しません。そういう歌い手は、歌にはさほど使わなくても、大きな声の
出せる体と繊細な表現を構築できる神経を持っています。

 つまり、器(ここでは、フォームといってもよい)というのは、大きくつくって
小さくできますが、その逆はできないのです。自分の感情をよりストレート
に伝えたくなってくると、それなりに大きな声も必要となってくるでしょう。
ですから、声量の幅をもつことは、より豊かな表現ができる可能性をもつ
ものといえます。

 多くの人を感動させるのに、パワーはなくてはならないものなのです。
ただパワーと感じられるものは、声量だけではないということです。
むしろ、インパクトとしての鋭さ、変化、動きの方が問われます。
 声の大きさでなく、イメージの大きさで歌うのですが、感覚に体が
伴わないとわかりにくいものです。そこでトレーニングでは、結果として、
その人にとって最大の声量の獲得を、そのためでなく、そのプロセスで
得られるもののために、セットします。

 ミニマムでマックスの効果が出てこそ芸です。トレーニングはマックスで
マックスを極めることに挑みます。器を広げるためです。
海外のヴォーカリストの響きがうるさくないのは、深い声で柔らかく
扱っているからです。大音量で聞いてもうるさくないヴォーカリスト
すぐれているのです。響かせ方でなく、声まとまり、声の焦点をイメージ
してください。つまり、どんな声量のある声もそこに一本の線がみえ、
その動きがみえ、それが働きかけなければ、歌は伝わらないのです。

○歌の発声

 まず、声を伸ばすことですが、その必要性を疑う、考えることからです。
歌の中で、声を伸ばす必要があるところを探してみましょう。
案外と少ないことに気づくはずです。私がプロとアマチュアの大きな差と
思うことのひとつに、歯切れのよさがあります。プロは歯切れよくことばを
切って歌っています。その中で、要所だけ計算して、効果的に声を
伸ばしています。アマチュアはどこもかしこも伸ばすために、歌にしまりが
ないのです。特に日本の歌は、語尾の一音をやたらと伸ばし、
“歌らしく”します。惰性になりかねません。

 本当はもっとフレーズの前半部で、勝負(追い込み、強調)して解放し、
自由度を与えておくことが必要なのです。
ですから、最初は、声を伸ばすことよりも、リズミカルに(グルーヴ、のりで)
ことばで言い切って歌うことです。その上で歌いあげ、
伸ばしたら効果のあがるところを厳選するのです。

 プロの歌っている通りには、歌わず、自分が生かせるようにアレンジして
みましょう。声を伸ばすことは最優先課題ではないということを理解したうえで
トレーニングしてください。多くの人には、声の状態、声の使い方(発声)、
イメージやフレージングの悪さが課題です。
歌では、それを知った上で悪くなるところまで決してみせないことです。


--------------------------------------------------------------

<「トレーナーの選択」に関するQ&A>

Q14.他のトレーナーから力を抜いてやるようにといわれます。
それでよいのですか。

A.それは発声として調整していくことで、作品としてどう使っていくかは
また別です。トレーニングは結果を出さなければいけない。
結果を出すなら、結局は負荷トレーニングです。
調整トレーニングをやって効果が出るのは力のある人だけです。

 松井や清原は、そこまでいくのに、どれだけ肉体的な感覚的な
丹念をずっとやっていて、データを頭の中に入れたかということです。
練習は決してそうでありません。確実に変えられるところは体です。
トレーニングとして誰でも引き受けて、誰もがあるところまでいくものです。
感覚というのは、すぐに聞き方が変わる人もいるし、そうならない人もいます。

広告を非表示にする