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第34号 2009.04.04

○ヴォイストレーナーの出身の違い

 かつての歌手の育成、声づくりは、作曲家がやっていました。
坂本冬美さんを七年かけて育てた猪俣公章さんが亡くなった頃、
そういう時代も終わったかのように思えます。つまり、かつては弟子入り、
住み込み十年でデビューというものでした。まあ、声のよい人を見つけてきて、
よい歌を渡せば、ヒットした時代だったからです。

 今はそれに代わって、シンガーソングライターの歌手(やバンドの作曲担当)が
楽曲提供をプロデューサーとしてやっています。落語家のように、師匠、
つまり歌手の大御所が弟子をとる例もありました。
しかし、これも必ずしもうまくいってはいません。
 声楽家については、触れません。国家の予算で育成にお金をかけて・・・と
いうのも畑違いの私から、ここで言及するのは、紙面のムダでしょう。
しかし、ずいぶん底上げしてきたようです。

 ここであなたは、歌手は歌手をなかなか育てられないということを、
少し頭に入れておいてください。作曲家、アレンジャー(伴奏)、プレイヤー、
プロデューサーが、トレーナーの役割をトレーナー以上に果たしてきました。
日本の業界の構造も次のような点で変わりました。
・声や歌について問われるものが変わった。
・プロデュースシステムの移行(プロデューサーの時代)

○出身別トレーナー活用法

 次に出身別にトレーナーの得意なところを述べます。
私は自分で体現できたことを自分でない他人にも通用させるのに、
また自分の勘を客観的基準としてみるために、才能ある他人の判断基準、
さらに科学的な測定や実証を欲したのです。

 次のように、それぞれのタイプによって、目的や判断基準が違ってきます。
1)プロデューサー
1.曲、詞、声
2.バンドの色
3.キャラクター

2)声楽家
1.発声、呼吸法
2.ひびき
3.声域、声量(歌唱法については、のぞく)

3)音声医
1.のどの状態
2.声の診断
3.病気の治療

4)作曲家
1.メロディ、ことば(感情)
2.歌心 投入
3.曲に正しく合わせる

5)役者
1.ステージパフォーマンス、動き
2.ことば、発声、感情表現
3.表情、表現力と演出

6)ヴォイストレーナー(私の考え方)
1.歌の構成、表現力
2.フレーズの音声力(音色、グルーヴ)
3.発声の基礎

○歌手(出身)のトレーナー

 ヴォーカル活動中のトレーナーには、自分の活動と他人のトレーニングの両立は、
大変であることを伝えています。
 私は人前で歌うことはトレーナーを選んだときにやめました。私のなかでは
歌は決してやめたつもりはないのですが、ライブやコンサートという形では、
やってはいないのです。

 二十代の頃は、睡眠の研究さえしたほど時間がなく、とても他人のことを
かまって自分のことまで上げる神経が両方にまわりませんでした。むしろ、
歌や声に頼らず、自分が自立して食べていく力をつけることに専念していました。
 もちろん、トレーナーの依頼を引き受けたとき、自分の声については充分に
やるだけやった思いもあったからです。(その当時、そこまでの人生設計しか
していなかったので)。ともかく、もっともエネルギーのいるのは、力をつけること
でなく、世の中に出ていくことなのです。

 ですから、私は本当にプロをめざしたいという人に、トレーナーをアルバイトにする
ことは勧めません。お金が必要なら、他の仕事を勧めます。たとえ音楽の仕事で
なくともよいのです。自らの声を守るためが第一ですが、日本のような環境
(音楽、声のレベルは厳しくない)では、他の分野の厳しさをもって音楽や歌には
入ることはできても、その逆はなかなかできないことを知っているからです。

 ヴォーカル出身のプロデューサーでも、日本の場合は、基本的なトレーニングを
経て力をつけたヴォーカリストはあまりいないので、その人自身の売りものとなる
カラーが共通している人にしか、アドバイスのことばは通用しないことや逆効果と
なることも多いようです。仮にそれができたとしても、ヴォーカルに二番煎じは
必要ないのです。ポップス、特に歌い手のよくないのは、個人的趣向(好き嫌い)が、
本人の知らずところで、必ず判断に入ってしまうことです。それは、レッスンなどの
選曲にも表れます。すぐれている、いないの判断は、多くの経験を持たなくては
難しいものです。

 最近は、
1.歌手への目的をやめ(あるいは、あきらめきれぬまま)
2.食うために他に手段がないから(まともに働くのがいやだから)
3.他の職がつとまらないから(ヴォイストレーニングは、楽しそうな先生稼業、
しかも好きな音楽だから)安易に入ってこられます。

 アーティストでは、引退でもしないのに、教えている人はあまりいません。
プロとして両立できるほど甘くないと思います。まず、自分のステージ活動に
専念することをお勧めします。そうでないと、ステージの方が厳しいので、
教えるのが後回しになるか、ステージが疎かになります。
ステージを成り立たせるため(集客のため)教えるのもどうかと思います。
ですから私は、最初はヴォイストレーナーとしてではなく、ピッチトレーナーや
歌唱のアドバイザーとしてトレーナーをお願いしてきました。自分の好みでの
声をまねさせるトレーナー、歌をまねさせるトレーナーの弊害もあります。


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<今週のQ&A>


Q31.日本の業界や市場は、世界からみてどうなのでしょう。

A.まず、日本の市場について、ひとくくりに述べるのはいろんな意味で
難しいです。アメリカなどを一例としてみても、はっきりわかります。
日本で10万人のオーディションをして、1、2人素質のある子を10年育てても、
向こうのアメリカンアイドルの決勝に入ればいいというレベルでしょう。

 こういう世界は、素質や才能というところで、ほとんどの事が決まっていきます。
その上にその人のオリジナリティーが出るためにレッスンが必要です。
そういう見方をする人は日本にはあまりいないし、プロデューサーもそんなことは
期待していないように見えます。

 日本の市場として考え、そこに影響を受けているアジアの市場だけで考えている
からです。「○○さんは、アメリカにいったら、どこまでいけますか」と
よく聞かれますが、「どう考えても無理でしょう」。
いってもわからないから、向こうのオーディション番組の録画を渡して、
「ここの予選で勝てると思いますか」と。
そういうのをみると、案外とすんなり、納得します。

 逆に、そこである程度、評判を得たりやれている人が、もし日本人としていたと
して、日本に来たときに同じ形で、同じレベルで成功するかというと、
これも違うと思います。

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