第36号 2009.04.18

「出身の違いとトレーナー」(3)


○声楽とポップスとの違い

 声楽の条件は、日本人にはとても過酷です。
 1.オーケストラに声が打ち消されない(声量)
 2.遠くの観客にマイクなしに聞こえる(共鳴)
 3.原調で演奏する(声域)

 ここで忘れてはならないのは、欧米から入ってきたポップスやその日本調の演歌は、
声楽と切り離せなかったことです。当初、声楽家がポピュラー歌手になり、
のちに声楽の発声トレーニングが日本のヴォイストレーニングのベースとなった
ことの影響が大きくあるのです。

 1.日本語の母音共鳴中心
 2.メロディ重視
 3.発音、ことば重視(ストーリー重視)

 ポップスは、ことばを重視しますが、声楽は声の共鳴と声量を重視します。
 ちなみに、ピッチは周波数、発音(母音)はフォルマントが決めるので、
ある高さまでは両方できても、それ以上は、ことばは声をじゃまするようになります。
だから、声楽の最高音での発音の正しさは、望めません。これを役者のように、
日本語の発音(ことば)を聞きやすくすること優先というなら、劇団四季のような
発声の方針もありといえるでしょう。
(ただ、声帯の負担は大きくならざるをえませんから、その分の犠牲も伴います)

 今のポップスに求められることをみると、条件が違ってきています。
 1.マイク、音響技術の進歩
 2.ことば(発音)の必要度の低下(テロップ/ライブ化)
 3.海外のリズム(沖縄なども含め)の重視

 つまり、今やポピュラーを歌うのに、声楽のトレーニングは必ずしも必要
ありません。
 Jポップスにテノールの発声で高い声を出している人はいません。
 しかし、私は今いくつかの面で、J-POPSだけでなく、俳優や一般の人の
ヴォイストレーニングにおいても、再び声楽の有効性を見直しています。

 1.声を、曲を、丁寧に扱える(ピッチ、音程、テンポに厳しい)音楽的基礎
 2.ベーシックな流れ(フレージング)を学べる 音楽的な流れ(構成)
 3.発声のポジションが深い 日本語よりもイタリア語などで出しやすい
  (発声、共鳴、声区のチェンジ、声量、声域)

 さらに、日本人の耳は、
 1.母音を聞く
 2.メロディを聞く
 3.ストーリーを聞く ようにできています。

 声楽は、
 1.世界で地域、民族を問わず普及し、ある程度の成果をあげた
   (歌手やトレーナーを育てた実績)
 2.誰もが何年かやると、それなりに声楽らしい声になる(とにかく素人離れ
   して変わる)
 3.日本人は、美しくひびく声はよく聞こえる(日本語に合っている)

 つまり、トレーニングにおいて大切な、トレーニングした声の獲得という結果が
出やすいのです。そのため、
 1.日本の劇団などの養成所の発声練習に使われている
 2.日本の多くのミュージカルでは、オーディションなどの歌唱に声楽の基準がある
 3.合唱やアカペラ、ハモネプに有効である

 つまり、声についての悪条件の日本人が、音大にいるうちにも、とにかく声域を
先にのばし、次に声量をつけるのに使った声楽の発声法は、そこにおいて問うなら、
今のポピュラーでも通じるといえなくもありません。

 日本人のポップスにおける声楽を学ぶメリット
 1.高い声がもてはやされている
 2.声量に悩む人が多い
 3.原調で下げずに歌いたい(コピーしたい方が多い)

 さらに、はっきりと上達しているという発声法での基準が欲しいという人には、
私は声楽をお勧めしています。10代や年配の方にはよいでしょう。
ただもっと重要なことは、一流の声楽家の少ない日本に、一流のレベルになるように
教えられる人はどのくらいいるのかということです。声楽をきちんと学べるのだろう
かということです。いったい、誰に、どこで、ということです。

 私は、オペラ歌手ではないし、オペラの指導実績もありませんから、専門外のこと
として、これ以上、言及しません。ただ、声楽家の採用オーディションでは、
いつも人材不足です。

 ここでは、いくつか、声楽出身のトレーナーに思うところと、
実際にお願い(注意)していることを述べておきます。
 まず、声楽家出身者はポップスを甘くみています。私から、声楽家にそのままでは
通じないからポップスを学べなどと、ヤボなことは言いません。声楽家にポップスなど
教えられないのは、百も承知なので、次のように考えています。

 1.発声のしくみとその使い方を、きちんと教えてくれたらよい。
 2.声楽をやれば、ポップスを歌えるとは思わないほうがよい。
 3.声楽家の歌うポップスは違うということを知って欲しい。

 声の出ることがポップスでは必要どころか、有利な条件とも限らないということです。
 ポップスの曲を歌っても、声楽の要素はあるのです。藤山一郎さんや淡谷のり子さん
あたりまでさかのぼれば、簡単に真似できないことでわかるでしょう。
誰もがコピーしやすい人ほど、このことの理解は難しいと思われるのですが。

 判断の基準が、次のこと中心になっています。
 1.発声、呼吸法
 2.共鳴
 3.ピッチとリズム(テンポ)の正しさ

 そこに個性やノリ、音色などの魅力があまり優先されないのは、仕方がないかも
しれません。その上で、声ということでは、声楽であろうとポップスであろうと、
理想とする発声は同じといえるから、使いようによっては、たいそう有益なのです。


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<今週のQ&A>


Q33.本来、歌というのは、それだけで完結された作品です。
レベルが高ければ、それに対してお客さんは感動するし、評価します。
ショービジネスです。
 エンターテイナーとしての実力は、音声での表現力を中心とします。
はっきりいうと、音声で完結されたものとは、一方的に発信され価値を
生ずるものです。

 こういうあたりまえのことを日本のプロデューサーにいっても、
「インターラクティブだよ、お客さんを盛り上げてこそ、いいステージができる」と
いいます。
 一体感も共感も嘘ではありませんが、それはステージから動かしていくものです。
客によってとなると、そうでないお客にはどうするんだ、ということにもなります。
客にあわせたステージになっていくから、日本では分野別の肩書きのついた
歌手になるのでしょう。

 そこは間違いでないとはいえ、結局、日本の場合は、その感覚の方が優先されて
いきます。年齢と共に声を使わなくなってきます。20代くらいでハードに歌って
きた人でも、30、40代で声が出ない、いや、ステージの要求としてそうでないもので
感動させたり、聞かせるようになってきます。その辺がヴォイストレーニングをやる
立場としてはややこしいところです。

 だから、こういう話は一般論ではなく、皆さんがヴォイストレーニングをやる
のに、レッスンに来たときに、レッスンの位置付けとして、どう考えるかという
ことへのヒントです。自分がどう接点をつけるかが一番大切なことです。
そのこととここまでにいったことを合わせて考えてみるのです。

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