第67号 2010.04.10 ○発声の最大の問題

○発声の最大の問題

 どのくらいのレッスンが必要なのかと聞かれると、私は、人によるので即答できないの
ですが、「一般的に」考えてみて、週2回、月8回というのは、身体運動に関しては
最低限、できたら2日に一度というのが理想でしょう。とはいえ、発声というのは、
日常化しているがために、スポーツや楽器の練習などと簡単に比較できないのです。

 何よりも、トランペット以上にひと声を出すのが難しい。ただ出すことでは、すでに
出せているがために、トランペットよりも難しいのです。それと、トランペットは
まともに音が出るから、自分の音を導くのに大変ですが、声はいろんな加工があまりに
自由なために、判断が難しいのです。
 つまり、声における最大の問題は、今のスタンス(立ち位置)を知ることや目的
(自分にとっての理想の声)をイメージすること、始点と終点がとてもあいまいな
ことにあります。そこに第三者のトレーナーが、その両方を定めきれない、というのは、
トレーナーによって違うばかりか、最初に必ずしもつかめるものではないからです
(特に終点に関しては)。そのため、トレーナーが一方的に教えられないものとなり、
共に研究していくべきものとなるのです。

○一声十年

 本当に声の弱い人間が人並みを越えて、一流の声と思われるようになるには、十年はかかるのです。陶芸のろくろ一つでも、その道で人並みになるには十年、プロスポーツ選手でも、10代(小・中学時代)の頃からおよそ十年、つまり、ものごとが成立するには、十年およそ一万時間が最低限の目安なのでしょう。2、3日で一人で湯飲みがつくれるようになったというレベルと、プロや一流といわれる二十年、三十年のレベルとは、簡単に比較や言及できるものではないのです。ちなみに一万時間とは、毎日3時間無休で十年です。

 ただ、私自身は声については、元が最低の部類でしたから、私の十年があれば、4、5年で才能のある人は到達できると考えたのです。そこで提唱したのがブレスヴォイストレーニング法でした。
 十年以上、試した結果として、私自身だけでなく、意図的に負荷を課し、声を変えることが可能ということがわかってきました。6、7割にはスムーズにいったのですが、あとの2、3割は(特に声帯が小さく高く、細い声が特徴の人)、声楽併用が有効であったという感触です。
 ブレスヴォイストレーニングに対しては、2、3年くらい、しかも私の指導下でなく、それまがいの方法でやったけど効果がないとか、のどを痛めたなどという人もいます。
なぜこのような複雑かつ、個人的に状況も条件も差が大きい問題を、単純に正誤の二極だけで考えるのかわかりませんが、私の方法は、私独自のものでなく、人間の言語音声習得のプロセスを後追いしています。もしそのようなことがあるなら、急ぎすぎか、無理強いをしたためで、方法よりも判断の方がよくなかったということです(本については、毎回ごとに注意事項を増やして、誤解のないようにしてきています)。
この件については、後で触れます。
 私は、初期のテキストからたえず、(音楽や)表現に対して、声は10分の1だから、常に音への感覚を磨きつつ、トレーニングしなくてはいけない旨を繰り返し述べてきました。
どの本にも、声やのどを痛めることには最大の警告を発してきました。私ほど、こういう注意をしてきたトレーナーはいないほどです。私自身の経験では、ポリープも結節もできたことはないし、のどを痛めたこともありません。

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<今月のQ&A>

Q70.頭が固いといわれます。どうすればよいでしょうか。

A.常に即興力を中心とすることです。自分の思い込みや計算、これまでの自分の声の使い方が真実をゆがめてしまうことは少なくありません。経験、知識は大切ですが、それを切ること、新たなものへ価値を見いだすことがもっと大切です。常に、次の可能性への瞬間に身をゆだねるのです。
・信じ、受け入れ、伝える行動をする
・集中し、壁にあたったら転じ、突き放す
 歌は歌っている中で、声は出している中で、伸ばしていくしかないのです。
 だからこそ、日常的にいつも準備していなくてはならないのです。

Q71.トレーニングにおける形や型について知りたいのですが。
 
A.なぜ、始めからマニュアルがあるとよくないのかというと、形に頼ってしまうからです。形とフォームは、違います。形から入ってフォーム(型)ができてきます。しかし、フォームもまた変じていってよいのです。いい状態で自分自身を知っていくしかありません。
 自転車に乗るのに、ペダルや車体のしくみを考えても仕方ないでしょう。十五段のギアの使い方を覚えるよりもまず、乗れるようになることが大切なのです。発声を自転車に乗ることに例える人もいます。練習してコツを覚えたら乗れる、一度覚えたら、あとは無意識にできるようになると。
 しかし私は、それで例えるとするなら、競輪選手のようなトレーニングの必要性を考えているのです。体をも違えるほどに行なってこそ、プロの声になれるのです