第71号 2010.06.12 ○歌より「モノトーク」で表現の成立をみる

○歌より「モノトーク」で表現の成立をみる
 あるとき、私は歌唱ではまだ表現できない、レッスン2~3年目くらいの人でも、15~30秒のモノトーク(日本語でのトーク)では、人に充分に伝わることができるというところにキャリアを、生活のなかからの表現力をみました。

 そこでオペラ歌手や、ポピュラー歌手にも、モノトーク※を必修にしたのです。どれだけ歌で伝わっているかが、わかりにくいからでなく、本人自身が、歌で伝わっていないことがわからないためです。
 マクドナルドでの「いらっしゃいませ」程度にしか、伝わっていないことがわからない。それではトレーニングにもならないし、そもそもトレーニングの必要さえもないから、日本語でしっかりと伝えるところから、スタートしたのです。
 (ブレスヴォイストレーニング研究所のレッスンが、歌手だけでなく、一般の人、役者、声優にそのまま有効なのは、そういう経緯があるためです)。

 これまでのことをまとめると、学ぶべきことは、次のようになります。
  a 体と結びついた声 -ブレスヴォイストレーニングの声づくり(声楽)
   b ことばと結びついた表現 (モノトーク)
   c 音楽と結びついた歌唱 (カンツォーネ) フレーズ、リズム、感覚
 カンツォーネをイタリア語で歌うのは a に、 日本語で歌うのはb に近く、ともにc を念頭に入れていくと、トータルとして理想的なトレーニングになるということです。
※モノトークとは、モノローグ(独白)を表現として成立させたもの、モノローグ=独白はダイアローグに対して用いられているので、それと区別して福島英がつくった。

○歌唱と声づくり(発声)の判断は反する
 自分へアドバイスする人、たとえば、トレーナーが複数であることで迷うとしたら、それはとても大切なことなのです。こういうことがすぐに解決しようとすべきことでない(そもそもできない)ことを知っていれば、あせる必要はありません。レッスンとは、解決するのでなく、問いを求めにくるのですから。
   d 歌唱へのアドバイス ― 声の使い方~状態づくり
   e 声づくりのトレーニング ― 声の育て方、鍛え方~条件づくり

 この二つは、目的のとり方が違い、場合によっては、明らかに対立するものです。
 私はプロの歌唱、ステージのアドバイスからこの仕事を始めたからよくわかるのです。
 当日、もしくは1週間くらいで本番を迎える歌手に、根本からの発声トレーニングを行うことは、リスクが大きすぎます。シーズン中にバッティングフォームの改良をするようなものです。せいぜいできるのは、姿勢、呼吸の補完やイメージ、意識、共鳴の集約、声の統一くらいでしょうか。
 そもそも、歌唱指導では、ポップスにおいては全体のバランスをとり、演奏のラインからはみ出すことを防ぐ、客が下手に思う要素があれば、隠さなくてはなりません。きちんと構成し、聴かせどころを強調し、曲の輪郭をハッキリさせ、表現らしさを引き立たせます。それに今や音響や視覚効果も考慮することが不可欠です。
 それに対して、トレーニングでは、根本的な改革を求められます。1、2割アップという改善では、大して変わりません。しかし、ほとんどのトレーナーが、効を急いで少しよくするだけなので、そういうものがヴォイストレーニングと思われています。
 声の改革というのなら、逆にあらゆるごまかしや不鮮明なところを白日にさらし、バランスを崩してでも、問題点を顕わにして、解決のための課題を鮮明にしていくことになります。もちろん、そこに声以外にも、アーティストのオリジナリティや表現とも絡むことなので、すぐにわからないこともあります。
ときにプロのアーティストのイメージに、その声や体がそぐわないときは、アーティストと考え方が相反することさえあります。しかし、作品としてのイメージと体(のどの器質)からの可能性は、限界をも知って行うべきであるのに、音響技術でカバー(あるいは、ごまかす)すればよいということにはなりません。アレンジやリバーヴの効果に安易に頼るから、将来性まで損なわれるのです。

 特に、私が日本人の歌手や役者に決定的に欠けているとみなしていた、
 1.力強さ、タフさ
 2.コントロール
 3.オリジナリティ(声としての)
 4.オリジナリティ(演奏としての)
 5.即興力(あと、コーラス力や統一力もあるのですが)
 などは、そう簡単に変わりません。
 この時代が、さらに音響技術での補完を容易にし、客も視覚的効果の方をより求めるようになったので、問題そのものの位置づけや、優先順も以前よりあいまい(というか、ダメでもよく)になってきたために、アーティストやプロデューサーと相談せざるをえなくなりつつあります。欧米のように、3つの条件の上に4がのったヴォーカリスト、つまり、本人のもっとも可能性のある声(オリジナルの声)を取り出した上に、作品のオリジナリティをのせるところにまで行かないのです。(求められないということです)

-------------------------------------------------------
<今月のQ&A>

Q78.日本一歌のうまいトレーナーにつきたいのですが。

A.自分よりも歌がうまい人や、声がよいトレーナーについてしまい、そのトレーナーが歌と声に秀でているゆえに、その人の感覚や発声法に入ってしまって、出られなくなった人をたくさん私は知っています。若気の至りとはいえ、最初はそういうトレーナーを支持しても、すぐに限界がわかると思ったのに、日本人はわからないのかなというのは、けっこう本音です。トレーナーの役割は、自分のレベルを早く超えさせることです。

Q79.自主レッスンとトレーナーにつくことの違い。

A.トレーナーにつくのは、精神衛生上、1.続けるため、2.自信になる、3.コミュニケーションをとる、という基本以前のレベルから、1.声を出せるようになる、2.歌をうまくなる、3.世の中に認められる、という応用レベルまで、いろんなメリットがあります。相手がどうして世の中に認められたのかから学ぶことも必要でしょう。
 自分を大きく変えるには、人につくしかないのです。人に影響されるために、何かに気づいて、変わるために人に会う、会うのは歌っているなら歌っている人に、教えられたいなら教えた経験の豊かな人に、です。多くの人は、そこでの選択を誤るのです。
 本当に歌がうまいなら、その歌を世に出すやり方や出せる人(プロデューサー)に認められる方法を学ぶことです。方法などという代物では、マニュアル化はできませんが。歌が下手なら、下手でもプロになれた人や仕事になっている人からも大いに学べます。