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第75号 2010.08.23  ○ブレスヴォイストレーニングと声楽の相違点

○ブレスヴォイストレーニングと声楽の相違点
 
 これは、何度か詳細に述べてきました。一言でいうのなら、声楽はオペラの基礎、ブレスヴォイストレーニングは、話し声を含めた人間のコミュニケーションのための音声の基礎です。(広くは、叫び声、泣き声、怒り声なども含めます)
 ブレスヴォイストレーニングは「アー」や「ハイ」の一声から、母音やシャウト、レガートなど、フレーズでの統一音声レベルでの解決、声楽はかなり広い声域、ハイトーン、声量を体で歌唱するための呼吸から発声、ビブラート、ロングトーン、ヴォーカリーズ(母音)、つまり歌唱フレーズでの統一のための基礎練習です。
 オペラが非日常に対し、ブレスヴォイストレーニングは日常ですが、その区分は、あいまいです。もともと舞台は、非日常とはいえ、日常のハイテンションでの集約に過ぎないからです。日常生活の中でも、ときにはドラマ以上に、ドラマが起きてしまうことがあります。いえ、しばしば、ドラマにもできないほどのドラマが成り立っています。

 これらは共に、イタリア人のような深い胸声を得るのが目的です。ただし、声楽も日本人の場合、多くがテノール、ソプラノ中心なので、ハイトーンと頭声共鳴が優先されているのは否めません。
 私はそれを逆手にとって、声楽をJ-POPSなどのハイトーン、ファルセットの習得に利用しています。ポピュラーのトレーナーの本人しか通用しない、中途半端な発声をまねたトレーニングよりは、声楽は万人に通用してきた実績のある分、安心かつ信頼も高いからです。ブレスヴォイストレーニングと声楽の組み合わせで、相互の弱点を補完することもできます。
 また、バスやバリトンの人には、ブレスヴォイストレーニングなど区別しなくても、同じことを声楽で行っているようなものです(ことばは、レガートでなく、スタッカート気味ですから)。
 声楽の中にも、いろんな考え、方法論、適用の仕方があります。とはいえ、百年を超える歴史の中で、オペラの伝統と権威ゆえか、お山の大将のトレーナーもいらっしゃるし、ポップスや役者声に偏見をもち、独自の教え方一辺倒の人も少なくありません。学生の頃、習ったままのことの受け売りで、何十年も自論として続けている人もいます。あまりに共同研究や科学技術を用いた解明などが遅れているように思います。

○方法の差異について

 私がいえるのは、ブレスヴォイストレーニングも声楽も特別な方法などというのはないということです。言語を発声として、幼いときからしぜんと習得していっている人類ですから、あるわけがない。大切なのは、判断です。こういう原点をきちんと押さえることです。
 その上で、一流の人が、日常の中でより強度に、短期に身につけるために、身につけた人のプロセスを効率化し、質を高めたものに使って、自分を高めて(深めて)いくのに過ぎないということです。つまり、同じ方法も相手やそのレベル、使い方によって毒にも薬にもなるし、方法の違いよりも、どう使えているかの方がよほど違いが大きいのですから、方法論を議論しても仕方ないのです。
 事実、私も他のトレーナーも、一人ひとり違う方法を用いています。その違いの方が、他のトレーナーの方法との違いよりも大きいのです。
 ブレスヴォイストレーニングや声楽を行わなくても、稀にこれらをしぜんの中でマスターしている人もいます。しかし、多くのそういうプロセスを取れなかった多くの人のために、よりシンプルに絞り込んで、感覚を鋭くし、コントロールを丁寧にし、体(呼吸器官や筋肉など)を強化、柔軟していくということです。

 これを特別なやり方(大きな効果がすぐあがるとか、逆にのどをつぶす間違ったやり方)と捉えること自体、とんでもない誤解であるということです。
 ノウハウとは、役立つように使うためのものです。それを役立たぬどころか、ダメにするように使うというのなら、そういう人がおかしいのです。役立つように変えたり、工夫すればよいのです。方法も道具も、思想や考え方も使い方しだいです。使って役立たない、毒だというなら、そこで工夫すればよいのです。そうして皆、自分独自のものを編み出していったのです。声楽もブレスヴォイストレーニングも、そのための叩き台にすぎないのです。

 私の示している方法もすべては叩き台で、本も問いにすぎません。誰かの話を聞いて、やってみてうまくいかないからと、その人のせいにするのでなく、その話から活かせるところを学ぶことです。それさえないのなら、ないというところから学べます。すべては、その人次第だと思うのです。
 逆にいうと、誰もがその通り、同じように、同じ期間で、同じようにできるようなものに価値はないし(もちろん、やらない人よりはやったというだけましですが、真の価値は、やっている人の中で問われるのですから)、そういう方法や本、レッスンほど、つまらないものはないと気づくことが大切です。